CALENDER
Sun Mon Tue Wed Thu Fri Sat
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930 
<< June 2017 >>
CATEGORIES
SELECTED ENTRIES
RECENT COMMENTS
LINKS
PROFILE

幻月

Phantom Moon
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |


| 話 −碧− (完) | 13:40 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一章 第一話
これから日記を書くにあたってまず最初に書き留めておきたいことがある。


普段は日々過ぎ去ることに、さして興味のなさそうなこの俺が、
何故わざわざそれを日記などというものを使って反芻するのかというと、
これは永遠に続く自責の念と過去に許されぬ所業を犯した自分への戒めに
形を持たせるため以外に外ならない。


俺は人を愛するということを俺自身の名前でここに封印する。


愛に資格など不用である、その言葉を俺が考えることすら、
俺を責め続ける過去という名の陰を、
更に一層濃く深くするだけなのである。


もしこれが他の人間の手に渡り俺以外の誰かがこれを読み返すとき、
決して俺に同情しないでほしい、
良心から生まれたものならなおさら俺を苦しめるだけなのだから。



                         20××年11月5日
                               志鷹巧郎
| 話 −碧− (完) | 14:07 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一章 第二話  転校生
小中一貫のこの学校で、さして変わらない日々に刺激を求めるのならば、
あるいは恋愛、あるいは勉強と、人それぞれに分かれるのかもしれない。

ただし、ここは男子校で、俺にはそういった性癖は持ち合わせていないうえ、
勉強に身を打ち込むほど、親思いでもなかったのは、いちいちここに書くよりも周知のことだろう。

ばかげた話に適当に笑い、代わり映えのしない話題の音楽や雑誌を見ながら、
どうすればこの白黒の世界が極彩色に染め上げられるのかと俺は日々頭の隅で考えていた。

そんなある日、いつもと同じ時間になった授業開始の合図とともに、
一人の男がこの部屋に異質の風を持ってきた。
黒い黒板に少年は、教師が白墨で自分の名前を書かれるのをじっと待っている。

細いあごに、長いまつげ、横顔からでも確認できる、灰色に近い澄んだ水浅黄色の瞳や、なぜかその容姿以上に興味を引くその存在感が、なぜか俺の胸を熱くした。

思い起こせばそれは期待だったのかもしれない。
この澱んだ排水溝のような場所に、一滴だけ間違えて流れ着いてしまった清流のような存在に。
俺は確かに目を奪われた。


少年の名は『志鷹 巧郎』というらしい。



| 話 −碧− (完) | 14:24 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一章 第三話  学友
新しい風は教師の紹介が終わるとまるで砂糖菓子のように扱われた。
もちろん、俺の周りにいた人間も、蟻のようにそれに群がっている。

涼しくなった周りに、どこか清涼感を覚え、
それでも一人残るのは逆に目立つと、重い腰を上げて少年の方に歩み寄る。

自己紹介を始める周りを、そのどこも見ていない瞳が通過する。
それでもちらりとこちらを向くと、なぜか自分の唇が弧を描くのがわかった。
俺が笑ったことが気分を害したのが、少年は鋭く俺をにらむと、机の上においてあった白い本を片手に、自分のせいで出来上がったという人の壁をすり抜ける。

すり抜ける直前、俺のほうを一瞬睨んだ用にも見えた。

蟻の一人が彼を引きとめる、だがまるで聞こえていないかの用に彼はその足を止めない。
まっすぐ行き着いたその先は、先刻彼が入ってきた教室の扉だった。

一度振り返り侮蔑の目でこちらを見ると、
今度はまるで何事もなかったかのように、彼はそのまま教室から出て行ってしまった。

砂糖菓子が消えた教室は、一瞬水をうったかのように静まり返り、
そのうち耳の端で彼を罵倒する声が聞こえた。
当然だ、こちらは気にかけてやったのに、あの態度で返されたのだから。

それなのに、俺はそのとき確かに笑っていたのだった。
| 話 −碧− (完) | 14:37 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一章 第四話 −思惑−
次の日も、その次の日も、まるでここにいるのが心外だといわんばかりの目で、少年はあたりを警戒していた。
その目はまるで冷えすぎた氷のようで、それでいてなぜかおびえた猫を連想させる。

そんな彼を斜め後ろの桂馬の位置から俺はよく観察していた。

授業中はぴんっと背筋を伸ばし、帳面をなぞる鉛筆に、それを握っている手。
左手の薬指に収まる細い指輪が時折きらきらと光っていた。
そして休み時間はふらりといつの間にか姿を消す、もちろんあの白い本を持って。

あの白い本にはいったい何が書かれているのだろうか、
見た目にはただの手のひらにちょうどいい小さな本には他ならないが、
彼自身が持っている雰囲気とまるで同じ雰囲気がその本から漂っているようにさえ思えるのだ。

あの不思議な少年のことが気に食わないのだろう、後ろではこそこそ何かを話している声が聞こえる。
こいつらを利用したらあの本は手に入らないだろうか。


俺は自分で考えるよりも早く口を開いていたことに、自分の声を耳で捕らえてから気がついた。

| 話 −碧− (完) | 14:52 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一章 第五話 −虐め−
その日はなぜかいつもよりも早く学校について、
誰もいないだろうと思える教室の扉を開けると、
意に反してくすんだ水浅黄色にかち合った。

そうとうあせっていたのだろう、
普段からは考えられない無駄の多い動きで何かを探しているように思える。
もしかして、と俺は思い当たり、案の定その日のうちに答えは出た。

昼休み、先日欠席した学友が、例の白い本を持ってきた。
なんでも先日の体育の時間に、こっそりと校舎に忍び込み、
そうして自分の机に隠しておいたというのだ。

学校を休んだものが疑われるはずがないと踏んだのだろうか、
まぁ悪くないとそれを受け取る。
ついでに胸元から煙草を探り出し、投げてやると彼は犬のように食いついた。

思い出す少年は蒼白だった。
まさかあそこまで取り乱すとは思わなかったが、


申し訳ないと思う反面、なぜだか俺の胸は躍っていたのだった。

| 話 −碧− (完) | 15:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一章 第六話 −切欠−
俺の手の中で、その白い無機質な物体は存在を主張し始めていた。
時間がたてば立つほど、このままこの本を開けたいという衝動と、
だからといって読んだところでいったい自分がどうしたいのかという葛藤が、
俺の中に生まれたからだ。

その日一日、少年の行動を観察した。
いつもどこか遠い過去か果てしない未来に絶望したような瞳は、
現実に戻されて圧死しそうなほど揺れている。
それを目に写せば写すほど、後悔が胸を中心にじんわりと体を支配して、
それでいてそういう風に彼の頭をかき乱したということに満足していた。

この相反する考えの、どちらを優先するべきか。

指先でその背表紙をなぞると、背中がぞくりと何かに支配された。
あぁ、本当にどうしてくれようか。

そんなことを考えながら裏庭の、隠れた丘になっている部分に足を運ぶ。
時々、こうして一人になりたいときに向かったその先に、
今日は先客がいることに煙草に火をつけて視線を上げてから気がついた。

くすんだ水浅黄色が俺を捕らえる。


彼だ。


| 話 −碧− (完) | 15:19 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一章 第七話 −空の碧−
先客がいる、と皮肉めいて言うと、彼はようやく俺の存在に気がついたようだった。
少年は俺の姿を認めると、先ほどとは打って変わって最初の日に見たように鋭い視線を送ってから立ち上がった。

もしかしたら彼は休み時間ごとにここに来ていて、
そしてここにその白い本を忘れたのではないかと推測したのではないだろうか。

呼び止める代わりに隣を通り過ぎる前に腕をつかむと、
もの凄い勢いでそれは振り払われた。

触るな、といいたいらしいことが如実にわかるその瞳をこちらに向けると、
なぜか口は弧を描いて笑みの形を作っていた。
持っていた本を取り出してぽとり、とそれを彼の手に落とすと、
一瞬だけ少年は目を見開いて、力の抜けたように座り込んだ。

中を読んだか、と小さな声で聞かれ、読んでいないと答えると、
うつろな瞳のままそうか、と今度は微笑んだように見えた。
なんでも、それは日記だという、懺悔に近いらしいそれを、かいつまんで彼は説明した。
なぜ俺にその話をするのかと聞けば、これも懺悔だ、とまたはかなく彼は笑った。

あんたは、空みたいな目をしてるから、何を言っても許されそうな気がする。

そういった彼に目が離せなくなったのは絶対に気のせいではなかった。
| 話 −碧− (完) | 15:33 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一章 第八話 −後悔−
そうした成り行きで、なぜか俺はよく彼と一緒にいるようになった。
一緒にいる、というのは本当にそれだけで、会話をしたり、
約束をしたりするわけではなかったのだが、自然とそういうようになっていた。

彼はあの日記を誰かに読まれたかったのではないだろうか。
茶化したり、馬鹿にしたりせずに
そうあったということをただ自分以外の誰かに知ってほしかったのかもしれない。

彼の口から聞いた話は、昔の恋人が苦しんでいるときに、自分は彼女を支えられず、
目の前で柵から落ちたのだと、それを延々後悔しているという内容だそうだった。
本気で愛していたと、いまだ彼の指に存在する細い指輪をなぞりながら、
彼はまたさびしそうに笑い、それをみて俺は表面には出さないがなぜか無性にむかついていた。

指輪の存在は知っていたし、そういう関係にある人間がいるということもわかっていた、
なのに彼をここまで変えたというその人間の存在に自分は無性にやりきれない思いを感じていたのだ。

そうして幾日かが過ぎて、この醜い思いを抱えきれず、ついにはそれがあふれ出してしまった。
半ば強引に床に押し倒し、駆り立てる衝動に身を任せ、唇を寄せようとしたそのときに
小さな悲鳴で俺は我に帰った

下からではなく後ろからしたその声に、そのまま視線を持っていくと

煙草を渡したあの少年が、こちらをみて固まっていた。
| 話 −碧− (完) | 15:53 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一章 第九話 −離別と告知−
案の定、俺たちは問題になった。
ここは男子校で、当然そういうことが前々からあったのだが、
示しを見せるため、と俺は停学処分を食らった、彼はは俺に無理やりされた、
という風にうわさになっていたので、謹慎程度で片付いた、

教職委員会に呼び出されたときも、彼は何もいわなかった。
怒るでも、泣くでも、殴るでも、なんでもかまわなかったのに、
彼はそのどれもしてはくれなかった。

おかげで俺の中でのやるせなさは日を追うごとにふくらみ、俺の中を支配していく。
気のせいか体も重くなり、部屋から出なくなった。
親も、俺にどう接していいかわからないらしい、
仕方がないと思う、きっとそれが普通の反応なのだろう、顔を合わせないだけで幾分か気が休まればいいと、わけの変わらない言い訳をして苦笑した。

学校で巧郎に会うわけにもいかず、きっとこのまま一生会わないのだろうと、そう思って眠ると、頭蓋が割れるような痛みで目を覚ますようになった。

あまりに大きな叫び声をあげるからか、さすがに親が心配して、俺を抱えて病院に連れて行った。

そこで俺は打ちのめされる、


どうやら俺は死ぬらしい。


| 話 −碧− (完) | 16:26 | comments(0) | trackbacks(0) |