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幻月

Phantom Moon
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序章 −夜光虫−

器に火をともせば、ゆるくぬるくそれは光り。
漆に塗られたたんすやらが、ほのかに揺れる火の陰影で、
まるで意識を持った何かのように暗闇から顔を出す。

光に見せられた夜光虫、飛んで火にいる夏の虫。

油に浮いた虫を見て、油膜であがくそれをみて、
もがいてはもがいては、許されぬ自由にようやく理解して、
それはふと、抵抗をやめた。
時折思い出したかのように、彼らは羽を動かして、脚を動かして、
また、あぁそういえばもう空には帰れないのかと、あきらめたようにその瞳を空中に投げた。

そう、あきらめればいいのだ、どんなことでも。

願えば願うだけ、ここは絶望を感じる場所。
| 話 −夜光虫− (完) | 12:11 | comments(0) | trackbacks(0) |
第一話 −蜻蛉−
ここは遊郭としても有名な、男専門のそれである。
官僚の中にはそういった趣向の人間もいて、
まぁ俺はそんなものには興味がなかったが、上司に言われてしまえば仕方がない。
女相手よりも後腐れはないだろうが、まさか自分が男相手に金を払うようになるとは思わなかった。

しまりのない顔をした彼らは、酔いのせいだけではない何かで、なにやら異様な空気をまとっている。
まるで、昼間部下に説教していた人間と同じとは思えない。
あぁ、なんで自分はこんなところにいるのだろうと、決して安くはない酒を一飲みした。

空になれば注がれる、赤い上等な杯に、
なみなみゆれるそれは行灯の明かりでじっと見つめれば吸い込まれそうになる。
薄桃色の液体。

ふと、障子の向こうに人影が落ちて、下世話な話をしていた彼らの声が一瞬にしてかき消された。
まるで感情のない、平坦な声。
開かれたそこから姿を見せたのは、少しつりあがる目元に紅を差した若い男だった。
どこからか、誰かの唇から、ほう・・・と感嘆の声が上がる。
女よりも色香を持つ、不思議な雰囲気の青年。
黒漆の黒髪に、耳に刺した赤い椿が美しく、それと同じ漆黒の、冷たい、何も移さない、感情のかけらも見えない瞳に、ぞくりと背筋が震えた。

店の雰囲気のせいだろうか、この男が快感に涙し、顔をゆがめれば、どんなに美しいだろうかと不覚にも俺は思ってしまった。
| 話 −夜光虫− (完) | 12:36 | comments(0) | trackbacks(0) |
第二話 −羽音−
一番奥の男は、見たことがあった、先週、俺を買った人間だ。
朝まで散々付き合わされた上、へたくそで俺は次の日苦労した覚えがある。

また、明日も大変そうだ、と顔に出さずに障子を越える。

口を開けば本音しか出てこないので、店のほうから口が聞けないとされている俺は、
ただ座って、煙管に火を入れて、男が耳打ちすれば緩く笑ってやるだけでよかった。
それだけで、食事と極上の酒、三枚布団、偽者の快感が用意される。
まったくぼろい商売だと、皮肉に笑うと正面に座っていた男が身を固くした。
勘違いしたのかもしれない、まぁいい、まるで意味があるようにもう一度しっかりとした意思を持って笑ってやる。
ほんのりと、男の頬が蒸気する、素直に気持ちが悪いと思った。

世の中は単純で平坦だ。
めぐりめぐったしわ伸ばしは、こうした下層階級の人間にやってくる。
最初はいやだと思って泣いて抵抗すれば、彼らは思い上がってさらに男に拍車をかけた。
それならば終わるまで何も考えなければいい、ここに居たくないなら心だけでも死ねばいい。
そうして覚えたあまりな身の振り方に、店はそれでも金を払った。
まぁ、俺たちに回ってくるのははした金だ、支度金をためられてしまえば困るのは店のほうなのだから。
こうしてほかの事を考えていても、それが物憂げに見えると、まぁ本当にこいつらは頭がわるい。

こいつらも同じだ、どれも同じ、モノに権力をかぶせた救われない犬。

孕まないだけよかったと思えば、俺の世界はまたひとつ死んだように思えた。
| 話 −夜光虫− (完) | 12:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
第三話 −子守唄−
釣り目がちの瞳が、試すように細められた。
何をなのかわからなかったが、それでもあぁこうして男はこの人間に落とされていくのかと、わが身をもって体感した。
空を見上げたように、何かから突き落とされる感覚。
座っているにもかかわらず、足元が不安定で目の前が回りそうだった。

上司の一人が、彼の肩に手を回すが、彼はそれをちらりと見もしなかった。
そういう仕事をしているのだと、重々承知しているとでもっているようなその瞳、
行灯の炎がその目に写っても、まるで硝子玉に写るそれのように光をゆるく反射する。

あのすべてを拒絶したかのような瞳に、自分の姿はどうやって写るのか。
知りたいような、知ってはいけないような、そんな禁断。

ふと、彼の肩に手を回していた上司がにやりと笑った。
どういう意味かわからず当惑すると、お前も落とされたか、とニヒルに彼は笑いながらいった。
どういう了見で、彼がいるこの席にその話を持ち出すのかと思えば、こいつは俺のものだと言わんばかりに彼を引き寄せその細い首筋を嘗め上げた。
醜態を知られたとばかりに全身の血が顔に集まる。
赤面しているだろう自分を上司は笑った。

それに、彼はなにも反応しなかった、ただ、されるがままにされていた。

硝子玉の瞳は、俺を一度だけ透過するように見たが、すぐに長いまつげに縁取られる薄いまぶたで閉じられた。
| 話 −夜光虫− (完) | 14:45 | comments(0) | trackbacks(0) |
第四話 −かくれんぼ−
三枚布団に散らばった、黒い髪をぼうっと見る。
昨日の夜も散々だった。
へたくそな相手に、さも感じているかのように演じるのは、思ったよりも神経を使う。

気だるげに起き上がればもう一度腕を引かれて押し倒された。

顔が近づく、荒い息が鼻にかかった。
酷い口臭だ、と心の中で毒づく。

あぁ、延滞料を払ってもらわないと、割に合わないと事情の最中俺は悠長に考えた。

こうして俺を抱いては、まるで征服したかのようにこいつは笑っていた。
ただ金でつながる関係だと、男は思っていないようだった。
身請けされたらどうしよう、あぁこいつは結婚していたから大丈夫か。
そうでなくても一様は身分の高い警官だ、男色と知られればそれなりに風当たりもきつくなるだろう。
警官ということを思い出して笑うと、男は何を勘違いしたか上機嫌になって腰を揺らした。

俺は地下に潜んだあの人の仲間だと、こいつは知らないでこんなことをしている。

実に愉快な話じゃないか。
| 話 −夜光虫− (完) | 14:56 | comments(0) | trackbacks(0) |
第五話 −地上に舞う−
昨日行った男妾館を見上げる。
まったく俺はどうかしていると、そう思いながらも椿を挿した男はいるかと番頭に言えばにやりと彼は汚く笑った。

彼はどうやら大夫の位置にいるらしい、それ相応の金額を提示され、懐に痛いながらも従った。

廊下を案内されながら進む、娼婦がいるような場所ではもっと晴れやかな雰囲気が漂う娼館だか、相手が男となるとどこか秘密めいた夜の帳が、ここだけを覆っているようにすら感じられた。

少しだけ軋む道を歩けば、離れに行き着き案内したものはゆっくりとお辞儀をした。
その手に少しの金を握らせると、ようやくその男も下がる。
まったく、さらに金をせびるなんて、本当にいいつくりだと感心してしまう。

高まる心臓に息を整え、見た目だけでも平静を取り繕い、離れの小さな扉を開ける。

薄暗い月明かりだけが差し込む部屋に、ふと、紫煙が目の前を横切った。
それを追いかければ窓に寄り添うようにして、男がこちらを向いている。

あぁ、彼だ、と胸は躍って、それでも顔に出さないようにと最新の努力をしたにもかかわらず、男はふっと笑ったようだった。

| 話 −夜光虫− (完) | 15:06 | comments(0) | trackbacks(0) |
第六話 −土に還る−

黒い髪、やたらとしっかり着こなした服。
そういえば昨日あった男らの中にいたやつだ、と俺は思って苦笑した。

また、警官に組み敷かれるのか、まぁ別にもうどうでもいいけれど。

手を差し伸べるとおずおずと男はその手を握った、
なんだこいつ、初めてか?
その握り方が気に食わなくてぱっと手を離すと、今度はなきそうな顔をされた。
ちらりとにらむと、今度は少し後退する。
どうやら気の弱い男のようだ、もしうまくやれば今日は相手をしないですむかもしれない。
昨日というか今日というか、朝まで離さなかった男を思い出して不機嫌そうな顔を作ると、何を勘違いしたか、男はさらに申し訳なさそうな顔をした。
変な男だと思いながら、煙管の中身を交換しようとすると、ようやく男は口を開いた。

今日は、別にあんたを抱くつもりじゃない

は?なにいってんだこいつ、と、柄にもなくあっけにとられて煙管に入れる煙草を取り落とすと、あんたもそんな顔をするんだな、と男は笑いながらゆっくりとそれを集めて窓の外に捨てた。
ここは、男を抱く場所だ、そうでなければ割に合わない金額を提示されているはずだし要求している娼館という列記とした売春宿だ。
しばし顔が元に戻らなくて、それなのに男は大事なものを見るかのようにふわりと笑うものだから、どうしてか顔を背けてしまった。

なんだこいつ、本当に意味がわからない。
| 話 −夜光虫− (完) | 15:21 | comments(0) | trackbacks(0) |
第七話 −押し寄せる−
一瞬だけ握った手のひらは、ひんやりと冷たくて、しっとりとしてすべすべとした肌に覆われていた。
白魚の手といわれれば納得する。そんな、まるで女のような手のひらだった。

抱くつもりはないといえば、彼は何かおかしなものを見るような目をして、固まった。
その様子がおかしくて笑うと、どうやら機嫌を損ねてしまったようだ。
ふいっと顔を別の方向に向ける。
なんだか猫のような男だな、と思い、髪をなでると今度は顔を赤くした。
さらさらしていて、さわり心地のいい髪だったので、もう一度なでようとするとはねつけられた。
耳まで赤いその顔で、今にも怒り出しそうになった彼は、目じりに少し涙をためているようだった、それだけ恥ずかしかったのだろう。

東洋にはまれに真珠と絹でできた人間が生まれると言うが、まさに彼のことを言うのだろうと、俺は納得しながらそういうと、彼はもっと顔を赤くした。
その様子がかわいらしくて、先日見た妖艶な彼よりも、ずっと人間らしくて、うれしくなって笑うと、持っていた煙管を投げられて、彼は奥の部屋に入っていった。
布団の敷いてある部屋だ、さっき抱かないといったからもしかしたら寝るのかもしれない。
あの上司は確かにねちっこそうだもんな、と悠長に考える。
だから、さっきそう提案した、思いがけない反応に、味をせしめるとは思わなかったけれど。

投げられた煙管を拾ってふかすと、紫煙がゆっくりと空間に消えた。
| 話 −夜光虫− (完) | 15:32 | comments(0) | trackbacks(0) |
第八話 −息が苦しい−
あの日、あの男は宣言通り俺を抱かなかった。
褥に入れば襲ってくるかもしれないと、柄になく緊張したのに、あの男はこの部屋には入ってこなかった。
変な男もいたものだと、思い出して赤面する。

頭を、なでられたのは初めてだった。

口で咥える時に頭をつかまれるのはしょっちゅうだったけれど、あんな風に頭をなでられるなんて思わなかった。
調子が狂う、本当に、変な男だ。

おかげで次の日は買われたにもかかわらず体調はよかった、それでも気は漫ろで抱かれるよりも疲れたように感じた。

部屋に戻れば手紙が一枚置いてあった、気に入っていた煙管は見つからなかった。
今日は体調がいいから、新しいものを買いにいってもいいかもしれない。
あの人に、手紙を書く余裕もできたからまだよかったのかも知れない。
それでもあの男が手紙の内容はまた今度という短いもので、なぜか気に食わなくて破いて捨てた。

部屋の隅に置かれた硯に、水を垂らして墨を擦る。

使いっぱなしにしてあったせいで、筆は傷んで億劫だった、仕方がない、が、むかついた。
| 話 −夜光虫− (完) | 15:43 | comments(0) | trackbacks(0) |
第九話 −散らないで−
上司の影から隠れるように、一昨日持ってきた煙管をふかした。

一昨日のように澄んだ空気にはならなかったけれど、どこか俺は満足した。
あんな顔を知っているのは俺だけかもしれない。
そう思えば思うほど、俺は自分の気分が高揚していくのを感じた。

今日もまたあの遊郭に誘われたが、今回は行かないことにした。

金の問題もあるが、それよりもあの上司と彼が一緒にいる姿を見たくなかっただけとも言える。
まったく小さな男だと苦笑した。
女用の煙管があれほど似合う男もいない、手のひらでくるくるとそれを回すと、きらきらと金細工が光を返した。
高級そうなそれに、彼の地位を思い知る。
気に入っていたものだったのかもしれない、勝手に持って言って彼は怒っているだろうか。
怒っているといい、その分俺のことを考えていてくれればいい。

だいぶキていると声を上げて笑った。
| 話 −夜光虫− (完) | 15:52 | comments(0) | trackbacks(0) |