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幻月

Phantom Moon
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ある写真家の話 一話
細い体、あいまいな視線、呼べばこちらを向くのはわかっているのに、一瞬でも目を離せば消えてしまうのではないかと思う。そんな女に俺は昔、恋をした。

【ある写真家の話】 

たとえば、世界から色が消えるとか、たとえば、太陽から嫌われるとか、そんな俺にとってのたとえばを彼女はすべてもって生まれてきた。きれいな女の人で、俺よりも5つか6つ年上で、それで居て少女のように笑う、そんな顔が好きだった。好きなところをあげれば何個だってあげられる、俺を呼ぶ声、笑うと細められるその目、俺の髪をなでる指、眠っているときに少しだけ震える睫、首を傾げるしぐさ、本を読む手、小さな足、桜貝みたいな爪、触ると真っ赤になる耳、まとめた髪の首に落ちる後れ毛、そうして彼女のすべてを言い終わったあとで、ようやく口を閉じることができる、それくらい、狂気みたいに彼女のことを愛していた、言葉には出せなかったけれど、それでいいとおもった、人一人言い切ることは永遠にできないと知っていたから、だから口に出して彼女に好きだと、愛しているといったことはなかったけれど、それでも本当に愛していた、これだけは俺の中の本当だった。
| 話 −ある写真家の話− | 16:55 | comments(0) | - |
ある写真家の話 二話
あの人の名前はもう忘れてしまった。確かに大切に心の中に鍵をかけてしまっておいたのに、その声も、姿も覚えているのに、ただ、あの人をあらわすその言葉を、俺はいつの間にかなくして、それにすら気がつかなかった。

【ある写真家の話】

出会いは偶然だった、いつだったかの雨の日、俺が彼女をバイクで轢いた。信号の色がわからない彼女が、間違いで足を出して起こった事故。彼女は怪我はしなかったが、よけた俺は脚の骨を折った。頭を打った可能性を考えてしばらく入院することになり、することもなくネガを弄っていた。何気なくとった写真が、世間一般にとても評価された、一枚の写真から俺は有名になり、それで食べるには困らない生活をしていた。俺を取り巻く環境だけが、めまぐるしく変わる、俺は取り残されたみたいにどうしていいかわからなかった、まるで主体性のない人形のようだと思って、苦笑する、俺はそれ以外の生き方をしらない、文句を言える口ももっていないのだ。そんなときに彼女が訪れた、プリーツの青いスカートに、白いカーディガン、手には花束と傘を持って。その日は暑い露の日で、青いプリーツスカートには少し泥が跳ねていた。
| 話 −ある写真家の話− | 16:57 | comments(0) | - |
ある写真家の話 三話
たとえば、貴方が望めば、俺はどんなものでも上げた、それが腕でも足でも、ましてや眼でもかまわなかった。そういうと貴方は悲しそうに笑った俺を抱き寄せた腕は震えていた。

【ある写真家の話】

椅子を勧めれば彼女は少し俺から視線を離しながら座った。細い体だな、と思いながら、泥が跳ねてますよ、といえばそのとき気がついたみたいだった、けれど結局拭くことはなくて、どうかしたのかと聞けば、どこに泥がついているかわからないから、と彼女ははにかみながら言った。何でも色がほぼ三色にしか見えないそうだ、黒と灰色と白、重度の色盲だといわれて納得した、だからあの時といえば、また彼女は照れたように笑った。よく笑う人だと思ったが、なんとなくその笑い方はきらいだった。あきらめているような、それを恥じているような、そんな顔で彼女は笑っていたから。ふと、彼女の視線が手元の写真に止まったのでとくに何も思わずに渡すと、おずおずしながら彼女はそれを受け取った。そのとき、一瞬だけ目を見開いた彼女は、花が開くみたいに、憂いの上にふわりと
やさしい笑みを乗せた。たったそれだけのことなのに、俺はそれから目が離せなくなってしまったんだ。
| 話 −ある写真家の話− | 16:58 | comments(0) | - |
ある写真家の話 四話
たとえば、人が愛せる量が一定に決まっていて、仮に10だったとして、それ以上愛したいと思ったなら、何を犠牲にすればそれは叶ったのだろう精神?能力?家族?それとも貴方だったんだろうか。


【ある写真家の話】


ぽたりと、その写真の上に、水が落ちた音がした。見れば目の前の女性の目から、静かにそれは滴り落ちていて、彼女自身なぜ自分が泣いているのかわかっていないようだった、それでも、とめどなく落ちる、それ、涙。写真なんて、彼女にとっては一番かけ離れたものなのだろうけれど、彼女の目にはどんな風にこの写真が見えているのかわからないけれど、まるでオーロラを始めてみた人みたいな、朝を始めて迎えた人みたいな、そんな顔をして彼女はそれを見ていた。たいそうなものじゃない、自分の見た世界、切り取った世界が、そんな風に人に作用するなんてしらなくて、どうしていいかわからなかったけれど、もしよければどうぞ、といえば彼女はまた驚いたような顔でこちらを見た。まだ、彼女の白い頬に、水が流れている。ぽろぽろと目には映らない丸い球になって、また彼女のひざをぬらす。どうしていいかわからなくて、それでもいいような気がした。そう思ったときにはすでに、もう俺は彼女に捕まっていたんだとおもう。
| 話 −ある写真家の話− | 16:59 | comments(0) | - |