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幻月

Phantom Moon
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− この愛の息の根を止めよ −


一人の男が部屋に居る。







− この愛の息の根を止めよ −







部屋の中、目の前の窓に寄り添うように男は居る。
彼女にとっては食料として囲った家畜。
いまだ、殺せずに居る。
腹は空く、糧がいる、食ってしまえばいい、目の前にあるこの糧を。
食わねば死ぬのだ、彼女とて、それは人間と変わらなかった。
腹が空いた、腹が空いた、爪を立てた腕から血が出ている。
目の前がちかちかと明滅する、腹が空いた、腹が空いた。
食えばいい、今までそうして永らえたように。
なにを自分は迷っている。
腹が空いた。
男がそんな彼女に気がついて近づく。
近づいたぶんだけ彼女は身を引く。
縮まらない距離に男は腕を伸ばす。
その伸ばした手を血にぬれた手で払う。
優しい声で彼は言う。
食えばいいのだ、俺は逃げない。
そんなことは彼女には出来ない、できればとっくにそうしていた。
食わねば死ぬのだ、腹は空いている。
男がまた距離を近づける、後に下がる、のどが鳴る、腕からは血が流れている、男からはいいにおいがする。
糧のにおいだ、と彼女は思った、食料のにおいだ、腹が空いた。
のどが鳴る、腹が空いた、血のにおいの中で、糧のにおいがする、彼女は腹が空いている。
また彼は距離を近づける、後に下がればもう壁だった、男は一気に距離をなくす。
人のある一つの感情を糧に生きる彼女に、自ら歩み寄ったのは男が初めてだった、彼女は戸惑う、血のにおいは止まらず、下がれるだけの道はない、男からはいいにおいがする、のどが鳴る、腹が空いた。
彼女はどうして良いか分からなかった、この食料を捕食したくはない、このまま自分から離れてくれればいい、ここから出て、二度と戻らなければいい、男はそれをしない、ただそばに居る、それが苦痛だ、腹が空いている、なのに食べたくはない、苦痛だ。
流れる涙を男が見ている、悪趣味だ、と彼女は思った。
食えばいい、俺は逃げない。
男はまた優しい声で言った、麻薬のような言葉だった、いっそそのまましたがってしまいたかった、それでも出来ない、首を横に振る、涙は散る、腹は空く。
お前はしらないからいえるのだ、私は肉を食いなどしない、食えなどしない、根こそぎ無くなったその感情を、持ち合わせぬ人間に生などない、心は死んで冷たくなり、身体は朽ちて腐乱する、蛆が湧いてハエがたかる、私は肉を食いなどしない、食えなどしない、私の愛したお前の身体は、汚い蛆に食われるのだ、それは我慢がならない、私はあの蛆以下だ、醜い、汚い、浅ましい妄執のような女だ、なぜそんな女をお前は愛せるんだ、私はお前が分からない。
男は続ける、それでも逃げない、食えばいい、そうすればお前は生きていられる、お前がしていることだ、俺が言うことを許せぬというのなら、お前の行動も自ら戒めるべきだ。
腹が立つ、お前は本当に無知な男だ、何も知らない、何もしらない、女は泣く、腕からは血が流れている、腹が空いた、苦しい、痛い。
私の前にいるこの男は、稀代の大ばか者で、自分勝手で白痴である、愚かしい人間だ、そんな男を愛するなんて、彼女は泣く、腹は空く、目の前には食料がある、糧がある、ただ手をかけられない、ただそれだけのことが出来ない、腹が立つ、それでも彼女は腹が空いている、目の前には糧がある、のどはなる、目の前はちかちかする、血のにおいは止まらない、苦しい、痛い、腐ったお前の身体を食らえば、この痛みは和らぐだろうか。





この愛の息の根を止めよ




生かすにはあまりに苦しいのに、殺すにはあまりに愛おしい。
| 話 −短編− | 15:22 | comments(0) | - |
奇人の愛
私は、あのひとの描く全てのモノを愛していました


奇人の愛


たとえば、あのひとが描く空、夏の雨、緑の葉、夜、常闇
全てがそうあるべくして紙の上に存在していました
それこそ元の白い紙が想像できないほどで、私はあのひとの描く全てのモノを愛していました、
その一つ一つの筆裁き、一本の筋、光と闇のコントラスト、まるで悪夢、それほどそれらは私の精神を浸食し、そして鎮座する、美しい現象、人のみに許される孤高、孤独、世界をゆがめてこのひとの中を通せば、それは白紙の上で空間を形成するのです。
わたしはその絵を初めて見たときに、ひとつ、ただひとつ、脳裏に針のように突き刺さる掲示を受けました。

わたしはこの作者を殺さなくてはいけない

女、男、そのような事はしりませんでした、当然のように名前もしらない、ただただ衝動のように、私はこの作者を殺さなくてはいけないと思いました。
これ以上のモノを描いてはいけない、これ以下のものを描いてはいけない、これ以上の創造は人の精神に著しく公害であり、これ以下の創造は冒涜である。私はこの作者を殺さなくてはいけない。
そうおもい、そうしたのです、私はあの作者をころさなくてはいけなかったからそうしたのです。
私はあのモノを愛していました、あの絵を、あの創造を、あの人間を、あの扉を、全てを愛していました、誰のモノにもしたくありませんでした、過去も未来も、すべて私のモノにしたかったのです、だからそうしました、私はあの人をあの人の世界を、あの人が形成した全てを愛しています、愛しています。
突き立てたナイフはどこに刺さりましたか、私は確かに手首をねらったのです、そうですか、そうですか、親指が欠落、そうですか、まだ筆を持つことができますか、あの人はまだ絵を描くと言っていますか、わたしは創造の先には死ぬことが待っていると思っています、どれだけ極上の音楽を作り上げても、さらに上は存在する、己の無力に落胆し、未来に絶望し、首をくくって初めて芸術となると思っております、かの有名な作家、小説家がそうしたように、人は人で無くなって初めて芸術家になるのです、あの人にはそうなってほしかった、私はあのひとを愛している、あの人の精神が食われ、蝕まれ、腐り落ち、発狂する姿が見たかった、今あの人はどうしていますか、まだ筆を持ちそうですか、そうですか、そうですか、あの人は芸術家になるべきひとなのです。

これが私の愛のかたちだったのです、それだけは確かでそれだけは本当です。
| 話 −短編− | 20:58 | comments(0) | - |
愛鬼
対象に優しくしてやりたいというのを愛というのなら、私はついぞ人を愛することができなかったといえる


愛鬼


私は、人に恋をすると、どうしても酷く傷つけてやりたくなるのです。
やらないほうがいいことを、わざとやって痛めつけて、傷ついて泣いている姿を見るたびに、酷く悦に入るのです。
そのひとは20の祝いを迎えたばかりの青年で、愛とはと問えばいつくしむことであると応えたその人でした。
思えばその時に私は最後の恋はこの人にしてみようと思ったのかもしれません、考えれば考えるだけ滑稽ですが、確かにその時わたしはそう思ったのかもしれません。
そのひとはよく、私のいるところに姿を見せました、例えば公園、例えば教会、町のカフェ、図書館、今気づいたというように振舞うときもあれば、わざと気づかない振りをして見せるときもありました。
私はそういうときに、よく手ごろな女性に声をかけました、自分でいうのもなんですが、容姿はわりと整っていたので、そういうときに失敗したことはありませんでした。
そのたびに傷つく彼の顔を、一度でも見たら、一度でもみたら、もっともっとと思ってしまうのです。
午後はよく、公園で会いました、その時だけ私は彼を見つけたら、意思をもって彼をむかえました、このときだけは気づかない振りをして彼をやり過ごすということは無く、いつも決まった場所で彼を待っていたのです。
おはようございますという言葉をいうと、もうお昼ですよと彼は笑いました。
何もないように笑うので、私は愉快で仕方ありませんでした。
彼は私の傍らに座り、じぃっと正面を見続けていました。
習うように私もそうしたところで、同じ世界が見えているとは思いませんでした。私の目に映った世界は、酷く物悲しく単調で、目の前でジェラードを売る男や、走り回る子供たちの酷く白雉な振る舞い、空を羽ばたく伝染病に、地下の汚染された水、犯された空気の構成するものでした。
彼の目は酷くすんだ色をしていたので、きっとそのように彼の世界は構成されているのだと思いました、色鮮やかできらきらしていて、あぁそうだ、希望に満ちているのだと思っていました。彼自身のように、私の世界の唯一の光、汚したくなる初雪の雪原。
ジェラードでも食べますか、と聞きました、いえ、と彼は小さく応えました。のどが渇きませんか、と聞きました、いえ、と彼は小さく応えました。
私が何かほしいものはありませんか、私はのどが渇いてしまいましたと、笑いながらそういえば、彼はまるでなきそうな顔をして、ようやくこちらに顔を向けました。
食らいつくようにして彼は私の首にすがりつき、崩れるように体重をかけてきました、私がほしいのは貴方です、貴方も気づいているはずと、かすれて消えそうな声でその人は言いました。
私はそれすらも聞えない振りをして、どうしたのですか、具合でも悪くなったのですかと白を通すと、その人は子供のように泣き出してしまいました。
その人からこぼれる愛の言葉、のどを引き裂き血を吐くようにしてつむがれる言葉、言葉、言葉、それらがきらきらと輝いて私の手の平から零れ落ちる、私はまだ、拾ってはやらない、毀れ、溢れたその言葉が、全てその身体から出し切ったときに、ようやくその空の身体を抱きしめてやろうと思っているのです。
なかないで下さい、かわいい人、と涙をぬぐってやりながら、もっと私に振り回されて、もっと私のことを考えて、もっと傷つき、もっと泣けば良いと思っていました。

口付けは塩と鉄の味

貴方は私に狂って死ねばいいのです
| 話 −短編− | 12:08 | comments(0) | - |
人魚姫の歌

 人と魚は元から住む世界が違う


人魚姫の歌


 押入れを整理していると、昔の童話が出てきて驚いた。
 ぼろぼろの装丁、指でなぞると厚く埃が積もっている。

 こんなファンタジーなもの、たぶん母親の持ち物だ。

 したりと笑う母親を思い出し、ぶるりと震えて首を振る。
 体だって力だって、男の自分の方がもう上なはずなのに、はず、うん、はずなのに、なんでいまさら母親が怖いんだろう。

「あら、なによ巧珍しいもんもってるじゃない」

 にょきりと上から手が伸ばされて、持っていた本が浚われる。
 あまりに唐突でびくりとして、気づかれないようにドキドキする。
 見上げた先ではぱらぱらと雑っぽく頁をめくる女、母親。
 埃が落ちてきて顔をしかめる。

「人魚姫ねぇ、これ私のお母さんの先生が翻訳したやつなんだけど、ねぇ」

 なにがねぇだ、続く言葉を待っていると、彼女特有というかなんというかの笑いが落ちてきた。

「ねぇ」

しかも探るように繰り返す。

「・・・・意味わかんねぇんだけど」

「もともとね、魚と人間は住む世界が違うのよ」

 魚は、人に触れられると火傷をしてしまう。
 それなのに、海に落ちてきた王子様を抱きかかえて、火傷だらけだし、座礁するかもしれないのに浅瀬までつれてってあげるのよ。
 人魚はどうかわからないけど、えら呼吸だったら、酸素吸い込んだだけで窒息死よ。
で尾ひれとか声とか全部あげちゃって、なのに王子は結婚しちゃうし、それで最終的にはあれよ、死んじゃうのよ。
 ねぇ、とまた笑う、なんとなく俺は言いたいことがわかった。

「重いわよねぇ、何べんも命かけられて、大事なもの捨てて、馬鹿よねぇ」

 その目が、人を小馬鹿にしているものじゃないことがわかる、多分、見てないけど。
 その目が、まぶしいものを見るように、細められていることを知っている。
 あたし、この話大好きなのよ。

「・・・・あのさ」

「あん?」

「あんただったら、どうしたよ」

 そういうとしたり、と笑った、さっきみたいな顔より、おれはずっとこっちのほうがなじみがある。

「落ちてきた王子様を拾わないで、水死体にして抱きしめるわ」

 それか、そうね、別の人が来る前に浜辺で何べんもひっぱたくわ、声を奪われても文字を覚えるし、姉妹に短刀を渡されたら、それで魔女を殺しにいく。
 純愛なんて、残念なことに似合わないのよね。

「・・・よく父さんはあんたと結婚したよな」

「あら、あの人だったら金蹴りしてでも浜辺で起こすわね」

 ・・・・それはいったいどんな形の愛なのか。
 健気なんて柄じゃないと隠すところなくしたりと笑う。

 かなわないなと思った
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| 話 −短編− | 12:04 | comments(0) | - |