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幻月

Phantom Moon
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はじめ
一秒として同じ形をしていない

そしてそれはそれぞれが最高の美だ

世界は美しい

限りなく美しくて優しい



一秒



冬の芯までさめる冷たい空気を肺いっぱいに吸い込んで起きる、この瞬間がコウは一年の中で一番好きだった。
去年と同じようにそうして、すっきりしたところで学校の制服に着替える。
形は黒のセーラーで、赤いタイを結ぶと一日の始まりが自分の中で告げられる。
廊下に出ると、ちょうど兄も起きてきたところだったのか、ぼさぼさの寝癖のままこちらを見て笑った。

「おはよう」

ぽんっと頭に手がのせられる。
目が合うと笑う、兄の巧郎は彼女が知る限り、苦しそうに、悲しそうに、安堵したように笑う人だった。
その理由は自分にあると知っていたので、どうしてもうつむいてしまう。

「・・・・・・」

「先に下に行ってるから」

「・・・・ん」

ぽん

もう一度だけ繰り返して、兄は階段を下りていくと、窓から光が入ってきて、兄の髪の毛を甘く透かせた。
きらきらしてきれいだと思う、寝癖がひどいから、もっと光をいっぱいに含む。


おはよう


また一日が始まってしまった。




生きていることは罪だ、あり続けることが罰だ




世界はこんなに美しいのに、なぜ私はこんなにも汚らしい

| 話 −一秒− | 15:25 | comments(0) | - |
すすむ
ご飯を食べる、その行為が嫌いだった

それでもそれを怠ると、兄はますます悲しそうに笑う

私はその笑顔を見て、どうしても申し訳なく思うのに

その顔はひどく美しいから、矛盾した感情がどろどろと体の中に溜まっていく



一秒



冬の朝は好きだ、冷たく澄んでいる清流のようで、兄に似ている。
一緒に登校している兄の横顔は、まだ半分寝ぼけているのか、どこかぼんやりしているけれど。

「・・・・・」

「どうかしたのか」

「・・・・」

「あぁ・・・」

じっと見ていると何かに気がついたのか、兄は首にしていたマフラーをこちらの首に回してきた。
本来の意味とは取り違えていて、しかももうすでに一枚巻いてあるから見た目がおかしい。

「おまえ風邪引きやすいから」

それでも出来上がったそのとぐろを見て、兄は満足したようだ。

ぽん

頭に手をのせて、笑う。
そうされてしまうと、どうしていいかわからない。


兄と別れて裏庭に向かう、教室は嫌いだから、行ったことがなかった。
うるさいし、埃くさいし、何よりたくさん人がいるし、誰かが座ったことのある机なんて、気持ちが悪い。
それなら、どんなに寒くても、外にいるほうがいいからコウはよくそうしていた。
下草の生えた辺りに腰を下ろす。
木漏れ日がまぶしいけれど、キラキラして綺麗だった。
世界は好き、兄も好き、どちらも限りなく純粋で綺麗だから。
その世界に存在する自分、その兄にあんな顔をさせる自分、それは酷く歪んでいて、綺麗だなんてお世辞でもいえない。


顔をうずめたマフラーから、冷たい冬の匂いがした。
| 話 −一秒− | 15:56 | comments(0) | - |
そう
夢をみた

どこかのギャラリーみたいで、壁にたくさん絵が飾ってある

白いカーディガンの女性が延々と続く回廊

そして最後の一枚



一秒



「起きてください、こんなところで眠っていたら風邪を引いてしまいますよ」

ぼんやりと目を開けると、薄いめがねをかけた男の人と目が合った。
こんなに近くに人がいることに驚いて突き飛ばすと、油断していたのかその人はあっけなく後ろにひっくり返って呆気にとられたようにぽかんとこちらを見上げた。
そのうちに走って逃げた。

「君!」

後ろで何か叫んでいる。
その声さえも不快だ。


走って、走って、走って、走って、しばらくするとぐいっと腕を引っ張られた。
何事かと思って振り返ると、息を切らした兄が立っている。

なんで?

「・・・・走ってる、の・・・見えた、から・・・」

ぜーぜーいって肩で息をする兄、兄は運動が得意じゃない。
それでもしっかりと腕はつかまれていて、つかまれた腕を見下ろす。

「どうか、したのか」

「・・・・・」

手を見つめると、理解したらしい。
また、悲しそうに兄は笑った。

「冬は水も冷たいから、あんまりこするなよ」

「ん・・・」

私は、よく手を洗う。
家に帰ってから、家にいるとき、何かに触ってしまったとき、突発的にとさまざまだけれど、よく、手を洗う。

水道まで連れて行ってもらって、ぼうっとしていると兄がゆっくり洗ってくれた。

暖かい手のひらが、冷たく冷えていく。
自分の手のひらだけなら、どんなに冷たくなっても、傷だらけになってもかまわないけれど、こうすると兄も冷たくなるから、できるだけその行為をすぐに終わらせる。
わかっていて、兄もしているんだろう。

見上げると兄は悲しそうに笑う。

「風当たると、さすがに冷たいな」

「・・・・」

ぽん

思わずうつむいた、とても泣きたくなった。


この人はとても優しい
| 話 −一秒− | 16:17 | comments(0) | - |
めぐる
最近、同じ夢をみる

左が白い壁で、右一面はガラス張りの湾曲した回廊を歩いている夢だ

ガラス張りの向こうは、芝と背の高い木

白い壁には、絵がかかっていて、それは全部同じ被写体が書いてある

ずっと続く回廊の先に、最後の一枚がかかっている

真っ黒に、塗りつぶされていて、斜めにカッターかなにかで乱暴に引き裂かれた絵だ



一秒



いつものように裏庭でまどろんでいると、一瞬きらりと何かがまぶしく光った。
目線を向けると、誰かが花壇に水を上げているみたいだ。
じっと、見ていると相手も気がついたのか、ホースの水を止めて少しだけこちらに歩み寄ってきた。

「・・・・・いつもこちらにいらっしゃるんですね」

「・・・・・」

「心配しなくても、これ以上は近づきませんよ」

薄い、めがねをかけた男は、ゆるく笑うと、花がすきなんですか、と小さく聞いた。
なんだか落ち着かなくてにらむと、男は造作を崩さないでちょっと待っていてくださいといって、まだ植えていない小さなポットを、これまた小さな鉢にうつしてゆっくりとこちら側に歩いてきた。

「もしよろしければ」

「・・・・・・」

「先日のお詫びです」

薄いめがねの奥で、男は動かない私に苦笑したみたいだった。
2mほど離れた場所にその鉢を置いて、少し下がる。


「あなたが私を嫌いでも、花に罪はないでしょう?」


そういって、男は悲しそうに笑った。
| 話 −一秒− | 17:00 | comments(0) | - |
いつ
枯れてしまうのは悲しいから、仕方なく鉢を持って家に帰ると

兄は少し驚いた顔をして、じゃあ庭に植えようかと提案してくれた

この花は春になったら咲くから咲いたら一緒に見よう、と付け加えるように言って笑う

その理由を私は知っている



一秒



「ごきげんよう、今日は暖かいですね」

「・・・・・」

毎日毎日、この人はいつも話しかけてくる、よく飽きないものだ。
薄いめがねの下の目は、いつも優しそうに細められている。
それがすごく不快だ、なんだか見透かされているようで気持ちが悪い。
ただ、不快なら場所を変えればいいだけなのだが、自分がなぜここにいるのかは検討がついているから、変えるに変えられない。
そんなことを考えているうちに、男は簡単に腕まくりをすると、ホースを使って水をまき始めた。
ホースの先端を指でつぶしているから、水が細かく散って光を反射する。

この光景は、好きだと思う。

「水って、不思議ですよね、この流動性や、光が入って光るところ、景色が歪んで思いもよらない形に移るところ、私はすごく好きなんですよ。」

一度、男は太陽の位置と私の位置を確認して、少し高く腕を持ち上げる。

「・・・・・」

「見えましたか?」

私のところからだと、ちょっと確認できないんですよね、と苦笑する。

「透明なはずなのに、色がつくのは面白いし、しかもそれが七色、いやもっと細かくたくさんの色ができることは本当に興味深い、まぁ専門家じゃありませんから、理由はよくわからないのですが」

やってみますか?と聞かれたけれど、悪意をもって視線をそらすと、また男は笑った。
兄も笑うけれど、この男もよく笑う人だとおもう。
しかも、時々笑い方が似ているから、気に食わない。


悲しそうに、笑う


この人も、たぶん兄と同じ。
| 話 −一秒− | 17:30 | comments(0) | - |
私は、死に損なった。




一秒




うたた寝をしていたみたいで、気がついたらもう太陽はずいぶん上に昇っていた。
何となく花壇の方をみると、あの男はいなかった。
ふと、視界にホースが写って、昨日男が言っていたことを思い出す。
あれは確かにきれいだった。
すこし、やってみたい。
辺りをうかがって、そろそろとホースまで歩く。
コックは少し硬かったけれど、びちゃびちゃと出てくる水の手綱を引きながら花壇に小さく雨を降らせる。
上から光を含んで、きらきらと落ちてきて綺麗だ、木漏れ日も好きだけれど、もっとキラキラしている。

たのしい、かもしれない。
昨日のあれ、どうやってつくってたっけ。

腕を持ちあげてみるが、光は以前同じ色だ。
いらっとしてぶんぶん振ってみるが、やっぱり変わらない。

「おや?」

「っ・・・」

いきなり声をかけられて、驚いて手を離すと、ホースが暴れてずぶぬれになった。
冷たい、服とか、髪が肌に張り付く。

「あぁ、すみません、私がいきなり声をかけてしまったから」

「・・・・・・・」

「そちらに行ってもよろしいでしょうか、そんな格好では風邪を引いてしまう」

ばたばたと中からタオルを持ってきて、男がそれを差し出してくる、
さすがに濡れたまま風邪でも引いたが、兄が心配するから仕方なく受け取った。
男の手は大きくて、爪の間とか、手のひらに、赤と緑色の絵の具が色を付けている。

「いくら昼と入っても、外は冷えますので、中へどうぞ」

「・・・・・・」

「乾くまででかまいませんので」

そういって、男は笑った。

その顔を見ると、どうしていいか解らなくなる。
| 話 −一秒− | 18:14 | comments(0) | - |
中は油だかなんだかのにおいで充満していて

私はこの男がようやく、この学校の美術教師だと知った



一秒



一度準備室に消えた彼は、戻ってきたときに手にカップを持っていた。
中身はストレートティーだ、少し離れたところから渡してくる。

「そういえば、まだ名前を言っていませんでしたね、水沢一片と申します。」

そういって水張り用に使うというドライアーを手渡されたので、コンセントにさしてスイッチを入れる。
沈黙とはいいがたい音が部屋を満たしたから彼はそれに苦笑して、それではどうぞご自由に、と元いた準備室に戻っていった。
見送って、それから数分かけて乾かして、かちりとその音源をとめる。
ここにいる必要はなくなった、だけれどもこのまま外に戻るのもおかしい気がする。
仕方なくぬれたタオルをもって準備室に向かう。
古いドアノブをまわすと、6畳もない場所に所狭しと画材がおいてあって、むわっと独特のにおいがして顔をしかめる。

「おや、どうかいたしましたか?」

「・・・・・」

無言でタオルを突き出すと、男は一瞬あっけに取られたような顔をして、笑った。

「置いていってくださっても構いませんでしたのに・・・」

ありがとうございます、となぜかお礼を言われてしまう。
変な男だと思いながら、ちらりと視線を男の後ろに流すと、一枚の絵。
視線に気がついたのだろう、男は苦笑して体を少しずらす。

「どうですか?」

「・・・・・綺麗じゃない」

「手厳しい」

植物と女の人がかかれた絵だった、傘は青で、スカートも青、白いワイシャツを着て、たたずんでいる。
違う、確かに綺麗な絵だ、ただ、なんだかそれだけな絵だ。
技術的には申し分ないのかもしれないけれど。
それを言葉にできなくて、男の顔を見ると、なんだか楽しいのか懐かしいのか、そんな風に目を細めて笑っていた。

「・・・・・?」

「覚えていらっしゃらないんですね」

そういって愛しそうにその絵の中の女の人をなでて、男はこちらを向いた。


「以前、あなたに同じことを言われたことがあるんですよ」

| 話 −一秒− | 14:52 | comments(0) | - |