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幻月

Phantom Moon
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桜並木が立並ぶ

人里離れた山奥に俺たちの学舎があった

隠せるものがあるとするなら


それは人の妄執と本当の自分




学舎



入学式に嫌々出ると、そこからは未知の世界になった
ひそひそとそこらかしこから聞える声が厭になる
今年は豊作だとか、どうすれば手込めにできるかとか
隠してるつもりなのだろうか天井の高く声の響く講堂では無意味なことこの上ない
そうでなくても自分は音に対して過敏と言えるほどに敏感なのに

「「うぜぇ」」

ふと、同じ言葉を同時に発した二人が顔を見合わせる
目が合うと相手はにやりと笑った

「お前名前なに?」

「・・・・志鷹」

「ふーん、俺は啓」

自分が名字をわざと言ったことを分って名前を名乗ったのだろうか
その考え方と笑い方が少し気にくわなくて眉を潜める

「巧郎だ」

「あんた何科?」

「ヴァイオリン選考」

「・・・・へぇ」

だからなんだよ、という言葉は無理矢理喉の奥にとどめておく
これ以上会話を続けるつもりはない
なのに隣の奴と来たら講師がこちらを見ていると言うのに話を終えようとしなかった

「志鷹でヴァイオリンか、じゃあお前が姉ちゃんが言ってた王子様か」

「は?」

「なんでもいろんなコンクールで賞とってんだろ?俺も何回か負けてるし」

「王子ってなんだよ」

「ナイトでもあり〜、だそうだけど?」

随分頭湧いた姉だな、と言おうとしてやめた
彼が言う前に彼も同じことを言ったからだ

「おっと、もう終ったみたいだな」

最後に短い挨拶があって解散
これから受験番号順に寮に連れて行かれることになる
ふと、別れる瞬間、アイツが振返った



「せいぜい食われねぇように気をつけろよ?」



あの人を食ったような笑みを顔に貼付けて
| 話 −学舎− | 00:16 | comments(0) | trackbacks(0) |
あまりに現実離れした学校だった

そんなの入る前からわかっていたけれど



学舎



部屋に入ると事前に運び込まれていた荷物が目に入った
それがオフホワイトのカバーに包まれたベッドの横に置いてある
ルームメイトらしき人物は、読んでいた詩集から目線を上げてこちらをみた

「どうも、これからの学生生活よろしくね」

「志鷹巧郎だ」

「僕は佐々木翔一」

簡単に握手すると、にっこりと少女のようにその男は笑った
俺もさんざん女顔だといわれるが、こいつのほうがずっとそうだ

「僕は外部受験者だから知合い少なくて、出来れば友達になってくれるとうれしいな」

「俺の交友関係に期待してるなら的はずれだ、俺も外部だからな」

「君の友達まで僕の友達〜なんてそんな馬鹿な考え持ってないから気にしないで」

時々居るよね、そういう勘違いしてる頭悪い人間って

「・・・・・・」

こいつ結構腹黒、とか思いながら一度顔を確認する
確かにこの顔から辛辣な言葉がはかれたんだよなと思いながら

「そう言えば巧郎くんは来週の桜花祭の服装どうするの?」

「は?でねぇよそんなもん」

あとくんはやめろ、気持悪い

「僕は出ようと思ってるんだ」

にこにこ

「・・・・・・」

にこにこ

「・・・・・・・・制服」

「僕の実家呉服屋なんだ、良かったら着物着くれないかな?」

ほら、とバック以外の一抱えほどある高麗の中から和紙に包まれた着物を出した
ちょっとした所作から匂うような和の気品を感じる
あと気のせいじゃなければ背後に黒いものが見える

「ん〜君は眼がちょっと紫に見える灰色だから、鉛色か鳩羽色が似合うと思うんだよね、それに真珠色の打掛けとか、あっでも髪はブロンドなんだよね・・・」

「・・・・なんでお前こんな学校きてんの?」

「ん、僕の家結構古い呉服屋なんだけど、大学出たら絶対店手伝わされるんだよね、だったら高校くらい親の目の届かないところにいたいじゃん」

ちなみに僕の選考はピアノ

親元を離れたいという願いは同じだが、なんだかこいつとは違うよなとか思いながら
ぜってぇこいつには逆らえねぇと誓った、こっそり心の中だけで

「俺はヴァイオリン」

「知ってる、ヴァイオリン科の志鷹巧郎・・・でしょ?さっき此処まで連れてきてくれた先輩が言ってたから」

「は?」

「君もなかなか有名ってことだよ」


どうやら思った通り


この学園生活も穏やかじゃなさそうだ
| 話 −学舎− | 00:44 | comments(0) | trackbacks(0) |
初受業
初めてあんな音を聞いたんだ

ストレートで繊細で澄んでいて

それなのにぞくぞくするほど殺気のような鋭さを持った音


僕にはこんな音を出せない



こんな音は誰にも出せない



音が彼以外選ばない




学舎




初授業はあの志鷹の次だった
僕がヴァイオリンを始めるよりもずっと後に始めたと聞くが
やっぱり才能というのは存在するのか
麻薬みたいな音の代りに心ごと持って行かれてしまった

「・・・・あの、もう終ったんですけど」

「あっあぁ、ありがとう志鷹くん、次小笠原君」

「はっはい!」

あぁあんな演奏の後に弾かなきゃいけないのか
少し重い足取りでみんなの前に立つ
落着かなきゃ落着かなきゃ落着かなきゃ

頭が真っ白になった


「あっ気が付いたみたいんだね」

気が付いたら天井が見えた
つまりは倒れたんだと思う、緊張のしすぎで倒れるのは実はいつものことだ
その白い天井の右に、にっこりと綺麗に笑う顔が見えた

「えっあの・・・」

「僕が一番前に座ってたから、いきなり倒れるから吃驚したよ」

「あっごめん・・・」

「うん、謝られるくらいならしないから」

「へっ?」

「翔一」

シャッとカーテンを引いて涼しげな顔が見える

「・・・・志鷹くん?」

「あんまりいじめんなよ」

「そんなつもりじゃなかったんだけどね」

そんなつもりじゃなくても何となく彼の発言には逆らえないなにかがある気がするんだよ
とはさすがに言えない

「大丈夫か・・・えっと・・・」

「あっ小笠原です、小笠原律」

「巧郎って名前本当に覚えないんだね」

「うるせぇ」

「あの、大丈夫です、本当にごめんなさい」

そう言って頭を下げると、隣でクスクスと笑う声と、溜息が聞えた

「それ」

「へ?」

「違うだろ」

「えっあっじゃあ・・・・ありがとう?」

語尾あがりでそう言うと、ぽすりと手が頭に乗った
あの麻薬みたいな音を奏でるあの手がだ

「あぁ、どういたしまして」


頭の上から降ってきたその言葉に


不覚にも泣きそうになった
| 話 −学舎− | 03:13 | comments(0) | trackbacks(0) |
グループ

音楽祭のためのグループを組むことになった

俺はだれと組めばいい



グループ



「一人は僕でしょ?」

にっこりと笑ったのは腹黒大魔王の翔一だった
もう最近は隠そうともしていない

「・・・・お前だけでいいかも」

これ以上増えたらいらぬ気苦労が増えそうだ

「ふふっ愛の告白みたいになってるね」

気持悪いよ

「・・・・ごめんなさい」

「分ればいいさ」

・・・・なんで俺学校まで来て虐められなきゃいけないんだ

「あとはあの小笠原君でしょ、彼どうぜ一人になっちゃだろうし
 小笠原君が第二ヴァイオリンで、僕がピアノでしょ?
 あとはチェロとヴィオラが欲しいな」

「チェロとヴィオラね」

「ついでに小笠原君には君からいっといてね」

「・・・・・分った」

これでどうせなんか言ったところで言負かされるのは目に見えてるのでやめておいた

「あれ?何処行くのさ」

「小笠原のとこ」

実際はお前のいないとこ




「小笠原」

「へっあっ志鷹くん!」

少し離れたところから呼んだにもかかわらず彼は耳ざとく聞分けたようだ
ふむ、耳は悪くない

「あっあのどうしたの?」

「あぁ今度のグループお前入れたから」

「へっ!」

うっうそ!本当に?とか顔を真っ赤にしながらわたわたとはしゃぐ彼はなんだか放っておけない感がある、えっまさかこれが母性本能?おれ男なんだけど

「あぁ、翔一が引張ってこいって」

「そうなんだ・・・ありがとう!僕頑張るね!」

「無理しない程度に期待してる」

へへっと少年は笑って、ごめん先生に呼ばれてるんだ、と走り去っていった
途中何度かこちらを振返ってこけそうになっていたけれど
ふと、今度は俺が後ろから声を掛けられた

「へぇ、お前あの小笠原入れるんだ」

「・・・・・」

振返ればどこかで見た顔、ただし

「・・・・・・誰だお前」

「・・・・そんなこったろうと思ったけど、啓だよ啓、入学式の時話しただろ」

「・・・あぁあのときの」

「小笠原とお前の音合うとでも思うのか?」

そんなこと言われても演奏聞いたこと無いし

「知らねぇよ、翔一が言うから」

「あぁあのお姫様ね」

ふーん、とじろじろ見られてむっとする

「何が言いたいんだよてめぇ」

「・・・・二人とも険悪な雰囲気だすんなら場所変えてくれないかな」

ふっと植込みの当りから声がした
のそり、と頭に葉っぱを付けた眠そうな少年が窓の外から顔を出した

「おっ主席じゃねぇか、眼鏡どうした眼鏡」

「部屋に置いてきた、又外で寝てると無くしちゃうからね」

「主席?」

「お前本当に名前覚えねぇのな、主席合格でタメの時枝、ちなみに俺のルームメイト」

「時枝早苗、よろしく志鷹くん」

握手を求められたので反射的に手を出してしまった
後ですこし後悔したが、まぁいいか悪い奴ではなさそうだし

「ちなみに選考は作曲と指揮」

「あっ俺はチェロだから」

「おまえには聞いてねぇよ」

「だからうるさいって言ってるよね」


・・・・なんとなく誰かと似てる気がした


とりあえず該当者は二名
| 話 −学舎− | 04:02 | comments(0) | trackbacks(0) |
月の光は人を惑わすと言うが


散りゆく桜ほど人を惑わすものはない



学舎



桜花祭
この学校入学して一週間初めての学校行事
本来男子が入ることを許されない女子の聖域
東の庭、一年で数回しか足を踏み入れることの許されない場所
桜花祭はそこで行われる

桜が風にさらわれる前に


「うん、皆なかなかじゃない」

二人部屋に四人、過密と着付けによる発熱で
異常なまでの室温になった部屋で佐々木翔一は一人涼しそうに微笑んだ

「・・・・なんであいつだけ平気なんだ」

「俺に聞くな」

「も・・・僕だめ」

「うわっお前大丈夫かよ!?」

きゅーと湯だってしまった律を必死になって啓が介抱する姿ははっきりいっておかしいのだが、残念なことに巧郎はそれに突っ込めるだけの体力が残っていないし
翔一は突っ込む気もないようなのでそのままになってしまう

「君たちこんなのでばててたら今日のお祭り最後まで持たないよ」

「別に俺は出るつもりはなかったんだけど」

「なんかいったかな?」

「・・・・」

ちなみになぜここに啓と律がいるのかというと
生徒会役員は全員強制で着物が厳守されていたため
早苗が翔一を訪ね、それに啓が着いてきて
さらには律が母親から送られてきた着物の着付け方がわからず乱入、
巧郎は自分で着付けができるので、さっさと着付けて涼もうと思っていたのに
翔一が僕一人にやらせるつもり?といつもの笑顔で脅しをかけて
仕方なく律の着付けをやるはめになり
憧れの人の近くにいることと、この部屋の温度で律が卒等しかけたという話だ
ちなみに早苗はさっさと生徒会の仕事があるとかいってこの部屋から出て行った

「しかし、姫さんが着付けできるとは思わなかったぜ」

「うん、僕の家呉服屋なんだ」

光の加減で模様が浮かび上がる、深い翠の着物を見下ろす
肌触りだけでもすぐに高級なものだとわかるそれ
律を着付けた巧郎も、さらさらとした布にすこしてこずったくらいだ
彼は薄くくすんだ藤色の着物を着ていて、根付に美しい金細工が刺されていた

「それにしても巧郎、律くんの見立てなかなかじゃない」

「・・・・おまえの真似だろ」

そういうと少し驚いた顔をして、一瞬で彼はふわりと笑った
自分が彼らの目の色に合わせたことを

「つーかこれ幾らだよ?」

そういいながら着物を見下ろす啓に、翔一はくすくす笑いながら言った

「とりあえず汚したら貸し1つ・・・かな?」

ちなみに着付けてあげたから実際貸し2つになるけど
それを聞いて室温がちょうどいいくらいまで下がったような気がした



「さて、そろそろ行こうか」



そういいながらどこから出したのか冷たい水を律に渡して、翔一がにっこりと微笑んだ





| 話 −学舎− | 16:13 | comments(0) | trackbacks(0) |
苔むした岩の間を縫うようにして清流が流れる


桜の花びらが渦を巻いて水に飲み込まれた



学舎



「あー!!!終わらないわ!」

女子の庭園のすぐそば
女子生徒会棟では黒髪の少女が美しい着物のままだんだんと足をならしていた
演出が終わらないのだ、もうそろそろ時間が来てしまう
男子生徒会は参加者のリスト作り、女子高等部生徒会は後夜祭の準備、そして女子中等部生徒会は昼の部を任されているというのに

出し物は決まっていた、定年通り野点と貝合わせ、百人一首、歌詠み、筝曲
女子音楽科中等部生徒会長は音楽、各クラブ(茶道部・筝曲部)担当
女子体育科中等部生徒会長は百人一首、貝合わせ担当
女子普通化中等部生徒会長は歌詠み、軽食担当だったはずだった
なのに・・・なのに・・・・

「樹和ぁ!あんたなんで屋台なんて発注してんのよ!」

「おなか空いちゃうじゃん」

狐のお面買うんだ〜とかいいながら、寝椅子に着物のまま足を投げ出した鳶色の紙の少女がニコニコと言う
むしろなにがいけないと言った風貌だ
いや、発想はあっている、確かに空腹を訴える参加者も出てくるだろう
だからあえて通例では奥に緋毛氈と重箱を用意した花見の席が設けてあるのだ
なのに何が悲しくて桜咲く、苔むした美しい日本庭園で屋台、桜とともに飛び散るマッチョの汗

「学園始まって以来の珍事でしょうが!ちょっと考えたらわかるでしょ!」

「むぅ・・・・だってお祭りなのに焼きそばないのよ?」

さみしくない?
そうやって小首をかしげるのもかわいい、計算だってわかってるけど確かにかわいい、同い年だって思えないくらいかわいらしくて頭なでて上げたくなる
だけど・・・論点から間違ってるんだって!

「ちょっと」

「ぎゃん!」

いきなり気配もなく背後から声が聞こえて、変な叫び声が出てしまった
しかもいすから転げ落ちて強か腰を強打する
すこしなみだ目になりながら、彼女は上を見上げた

「ノックしたけど返事なかったから勝手に入ったよ、はい、今回の参加者リスト」

すっと切れ長の美しい目の青年だ、確か男子高等部音楽家生徒会一年役員

「時枝さん・・・・でしたか、失礼いたしました」

「うん、気にしないで、腰平気?」

「平気です、少し驚きましたが」

「・・・・仕事終わらないの?」

目線の先には発注された屋台の名前が書いてあった
そして今からお弁当作りに間に合いそうな店のリスト
あぁこの珍事、できることなら外部に漏らさずに穏便に引き上げてほしいと思っていたのに

「いえ、すぐに料理の発注とお詫びの電話を入れますので大丈夫です」

「えー、屋台楽しいのにー」

ぶーぶー後ろからブーイングが聞こえるが無視だ、一切無視だ
考えても見なさいよ、美しい日本庭園、桜の花の下のマッチョ、飛び散る汗ときらめく白い歯

「・・・・いいと思うけど?」

「は?」

「屋台だけなんでしょ?だったら店舗の垂れ幕とか全部同じ緋色にして、ちょっとシックな感じにすればどうかな、いつもは奥で食べるけど、桜には煙はよくなさそうだから、ここの前の通路使ってさ」

いつも使う緋毛氈しいてそこで食べてもらって

「後夜祭は通例通りやるみたいだから、ちょっと遊び心があってもいいかなと」

たしか演劇部によさそうな提灯と鳥居があったような気がするなぁと彼はいった

「庭園の中が気になるなら、東の庭には持ち込み不可にすればいいし」

頭の上を通り過ぎる昔のお祭りの風景
ごみが庭に入ってこないならそれは万々歳だし
うるさいのが好きな連中はそちらにいってくれるので庭園と屋台側で二分できる
ただでさえ体育科の男子どもは、庭園のデリケートな苔を踏んで枯らすのだ

「・・・・・いいかもしれないわね」

「えっ本当に!?」

「私は言ったことは覆さないわ、樹和、今から中等部生徒会役員と執行部各自にやってもらうことを伝えてもらうわ、中等部副会長三人と執行部2年は屋台の設置、生徒会一年は三年の手伝い、執行部一年は演劇部から鳥居と提灯を用意してもらって」

そうしててきぱきと進めるのを見て早苗はくすりと笑う
どうやらこれで出番は終わりのようだ
とりあえず、断られるとわかっているが声をかける

「俺もなにかしようか?」


「いえ、これは中等部の問題ですので」



ほら、やっぱり





| 話 −学舎− | 17:08 | comments(0) | trackbacks(0) |

電子音が響いて持ち主に何対かの目が向けられた



持ち主はその画面をみてにやりと笑う


どうやら今日の桜花祭は何かが違うらしいぜ?



学舎



「うわー!!!屋台だ!」

そういって走り出す律に転ぶなよーと啓が大きな声をかける
その声に振り返って案の定転びそうになった彼を、啓がすばやく受け止めた

「あっぶねぇなお前」

「ごめん・・・」

そういっててへへと笑う彼は大変かわいらしい
そこらにいた女の子がぽっとほほの色を染めたくらいだ
ほんわりとした雰囲気に一瞬周りが穏やかになるが
だが、彼の目の前にすっと影が落ちた

「小笠原君、転んだらどうなるかわかるかな?」

にっこり
転んだらどうなるかわかるかな→転んだら着物がどうなるかな?→そしたら君はどうなるかな?

(((((怖っ!!)))))

ほほを染めた女の子が今度は顔を青くした
手に持ったりんご飴がぼとりと落ちる

「・・・・・」

そんな様子を、数歩離れた場所から巧郎は見ていた
別の意味で青い顔をして

「あれ?巧郎顔色悪くない?」

「・・・人ごみ苦手なんだよ」

だから行きたくなかった、といわれて、あぁなるほどと納得した
この視線の数
巧郎はたしかに綺麗な顔をしているし、ましてあの才能だ
音楽科のやつらに知らないやつはいないだろう
そうでなくても傍から見れば括弧いい啓や、上辺だけでも上品でやさしそうな翔一、ドジで間抜けっぷりがかわいい律が集まっているのだ
その視線はいつも以上

巧郎を青くさせるには十分だった

「・・・・仕方ない、僕はこいつらみてるから、時枝君と合流してきなよ」

そういって袖の下から薄い紙を出す
それは高等部生徒会役員以上が持つ招待状だ

「東の庭のずっと奥にごくごく内輪の場所があるんだって、そっちなら楽なんじゃないかな?」

「悪ぃ・・・」

「貸しにきまってるでしょ」

「・・・・・ありがとう」

そういってふらふらと歩き出した彼の背中を見送ってから、翔一はくるりと振り返った



「さて、そこの二人、まさか僕をそっちのけにするつもりはないよね?」



| 話 −学舎− | 17:45 | comments(4) | trackbacks(0) |
あぁ人の声が聞こえる


人の鳴き声が聞こえる



俺をののしる声がする



学舎



「・・・・・ふぅ」

先刻の招待状を見せると、するりと奥まで案内された
滝の音が近いことを考えると、大分校庭の端まで来たのだろう
案内役の奴が身を引くと、誰もいない場所に俺は一人取り残された

「・・・・早く着すぎたみたいだな」

多分今の時間には生徒会は桜花祭の収拾に回っているのだろう
となるとここにいるのは俺だけか
ちろちろと流れる川に沿って歩く
苔を踏まないように渡し石の上を通る
どうせなら参加しないでサボりたいのに、それをさせなかったのはそうやって俺が人から避けることに気がついたからだろうか

「・・・・・・」

少し疲れたのででかい桜の木に寄りかかる
座りたかったが後が怖い
ハンカチなんてもの持ち歩いていないし
目の前を流れる小川には桜の花びらと数枚のまだ青い紅葉

ふと、筝曲の音が聞こえた、多分むこうの一般のほうで演奏が始まったのだろう
音を聞くといやでも荒を探してしまう自分に気がつき嫌気がした
音の聞こえないほうへと進む
滝の音が近くなると、弱弱しい人口の音を掻き消した
開けた場所に出たとたんに強い風が吹いた

「・・・・・狐?」

石の上に女が乗っていた
狐面をかぶった女だ
本当に変な括弧のそれ
ここには持ち込み不可なのに手には焼きそば持ってるし
起用に指の間にりんご飴とチョコバナナとイカ焼が刺さっていて
腕には綿飴の袋と金魚が二匹

「・・・誰あんた」

「ここの生徒」

顔さえ見えない、自分から名乗らない奴になんて名乗る名前を持ち合わせていない

「生徒会役員じゃないよね?」

「役員の顔もわかんねぇの?」

「・・・・むかつく」

「お互い様だろ」

味の濃い焼きそばもイカ焼も、着色料の入ったりんご飴も、変な色のチョコがトッピングされたチョコバナナも嫌いなんだけど

「ふーん」

とんっと目の前に音もなく着地する

「あんたかわいそうな奴ね」



すっごくすっごくすっごくおいしいのに



「あれ?志鷹じゃないか」

招待状、佐々木からもらったの?
その声に反応して振り返る
白を基調とした着物を着た時枝の姿が見えた
それを目の端で捕らえてまた視線を元に戻すが・・・

「・・・・・・」

「どうかしたの?」


うそだろ


「狐に化かされたみたいな顔してるよ?」



あの女はいなくなっていた
| 話 −学舎− | 18:10 | comments(9) | trackbacks(0) |
どんな曲でも一度聞いたら忘れない


なのにアイツの声は思いだせない



学舎



「うん、なかなか良いんじゃないかな?」

グループの発表に向けて、練習を始めた俺らは結局啓と早苗を迎え入れることになった
ちなみに早苗がヴィオラだ
指揮者たるもの一通りの楽器は弾けるらしい
弦から弓を外すと、にやりと笑って啓が言った

「まさか律の柔らかい音と、あんたの麻薬みたいな音がマッチするとはな」

「麻薬って・・・啓君それ言過ぎだよ」

「でも俺も聞いたことあるよ、麻薬みたいな音だって」

たしかどこかの新聞だった気がするけど・・・と早苗が言った

「てめえら人の音をなんだとおもってんだよ」

「耳から離れないんだよね、巧郎の音って」

でも優しさに欠けるから、律のヴァイオリンと相性が良いんだよと翔一が続けた
確かに巧郎のヴァイオリンは繊細で限りなく正確で鋭く耳に残る、折れそうで鋭利なナイフを容易に連想させる
だが律のヴァイオリンはその反対で、優しくて甘くてふわふわしているのだ
そう、まるで綿菓子のように

「で啓が力強くて楽しい感じ、早苗が安定してて聞きやすいでしょ」

「あっでも佐々木君のピアノは、調和剤みたいで凄いと思う」

「・・・・なんで褒め相いしてんだよ」

ナルシストに嫌悪感があるのか、巧郎の頬がぴくぴくしている
タダでさえ練習なんてあまりしないのに、こんな会話のタメに時間を割いていると思うと頭痛がする
今日だって練習をさぼってどこかで寝ようと思ったときに律が来たのだ

・・・・何となく律だと断れないから怖い

きっとこれを分っていて差向けてるんだろうな、と遠くで思う
主犯は絶対翔一だ

「昼休み終るからそろそろ戻るぞ」

「あっちょっとまって」

楽器をケースに終いロッカーの中に入れる
一人一人別々のロッカーがあるのは多分コンクール前に楽器にいたずらされないタメだ
鍵を掛けてポケットに入れる(ちなみに律は鍵は首からかけてる)

「次の時間なんだっけ」

「体育だよ」

「面倒くせぇ」

「そう?俺大好きだけど」

運動しねぇからこんなにほせぇんだよといれて巧郎がお前みたいな筋肉馬鹿に言われたくないなどと可愛くないことを言った

「んじゃ勝負しようぜ、温室猫ちゃん」

「体力の無駄」

「次のバスケの時間ゴールを多く決めた奴の勝ちな」

「勝手にやってろ」




ちなみにこのあとの試合で、センターライン付近から一歩も動かず


なのにゴールを連続して入れる巧郎の姿があった
| 話 −学舎− | 22:05 | comments(9) | trackbacks(0) |
視線って言葉はいいえて妙だ


この糸は絡まって解けやしない



学舎



「・・・・・」

一瞬絡みついたそれに足を止める

「どうかしたの?志鷹君」

「・・・・なんでもねぇ」

これはいつも感じているものだ
外に出たら必ず俺について回るそれ
でもそれが最近やたら過敏に反応する

「・・・今日も?」

「・・・・・・あぁ」


なにが、とは言わないあたり翔一も気がついているのだろう
最近のこの視線の中にひとつ異質なものが混じっている
いつもは切望とか尊敬とか、疑念とか恨みとか
でもこれは違う、爬虫類とかそんなものが獲物をねっとりと見ているような視線だ

「ここが共学なら話はわかるけど、もしかしてそっちかな?男子校ってそういうの多いって聞くし」

「ふざけんな」

巧郎って実は潔癖だよね、とくすりと翔一は笑った



潔癖とかそういう以前の問題だろ



「あの生意気猫やっぱ気づいてるや」

教員棟の屋根裏で双眼鏡を片手に黒髪の男がにやりと笑う
長い足が投げ出されたソファーは黒い牛革の高級品だ
片手に持った小さくて厚い手帳をぺらぺらと満足そうに捲る

「志鷹巧郎、音楽科一年、ルームナンバー1106、ロッカーは音楽棟六階一年専用ロッカールーム番号1124、鍵の所在は左ポケット、時間割も入手済みだしやつの友達の情報も完璧」

スリーサイズとか好き(薄味のもの)嫌い(化学調味料&味の濃いもの)、生い立ちと女性遍歴、ホクロの数とかはいらねぇよな・・・と誰ともなしにいう彼は言った
するりとコードで敷き詰められた床に立ち、窓による
そこから見える教室に向かう三人の少年たちに極上の笑みを添えて携帯を開いた

「あーSORAだ、依頼終了『蝶』の情報をそっちに送るぜ、その前に金ちゃんと振り込めよ?」


さぁこの蜘蛛から逃れられるかな?

| 話 −学舎− | 15:16 | comments(5) | trackbacks(0) |