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幻月

Phantom Moon
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鬼百合
あれを見さらせ鬼百合じゃ


鬼百合


祖母の家の縁側に、白い鬼百合が咲いている。
毎年夏になるといつのまにかにょきにょきと生えて、庭一面にその反っくり返った花を見せる、盆の名物のような花だった。
小さいことから私はその時期になると心が騒ぐ、それというのもそうして私が庭を眺めていると、一人の涼しげな青年がひょっこりと顔を出すからだった。
今日もいつ出るかいつ出るかと、縁側で待ち侘びていれば、呆れたような顔をして、椿の木の間からその青年は顔を出した。筑紫のような出方だったので、私は少し噴出してしまう。

あぁ、又お前か

えぇ、また私ですよ

くすくすと笑えば、青年の顔はゆっくりと笑いの形を取る。
いつも来るとお前が縁側に座っている、とそのひとがいうので、どだい私も暇なのですよ。と言い返してやれば、知っているとこともなげに打ち返された。

青年は薄の穂のような髪の色をしている。
鳩色の着物をずらんと面倒だといわんばかりに着ているが、汗をかいたことは見たことがない。
触ればひんやりと冷たく、まるで私は清流につかったかのように思うのだ。
熱い日差しの中でそのひとの隣は、都会の機械で冷やされた空気よりもよっぽど私を涼ませる。

迎え火もなしにお帰りですか?と聞けば、お前俺をなんだと思っているのだ、と怪訝そうに眉をひそめて、ぐりぐりと男は髪の毛を乱した。
このひとはなんだといっているが、人間でないのは明らかでしょうといえば、お前のなかでは盆帰りの幽霊か、人間かしか区分がないのか、かわいそうな頭だな、そこらの烏のほうがよっぽど頭が良いぞ、とあぁ本当にこのひとは口が悪い。

あれを見さらせ鬼百合じゃ

この家の主である祖母が、この庭に執拗に生える鬼百合を指して、そういった。
その横顔が、何か悲しむような、怒っているような、それでいていつくしむようにゆれていたのを私は知っている。
祖母は盆になるとめったに庭に出ない、そうしてつむぎだされる答えに私は納得し、それでいて少しばかり寂しかった。
祖母はいないぞ、今は出ている。そういってやるとそうか、ならお前で仕方ないと、そんなことをいいながら帰らないでいてくれるこいつが悪いと私は思う。

この青年は祖母に懸想している。

私と祖母はそれほど顔が似ているわけではなかったが、青年がその外側の皮をはいだ中身を確認するかのような目でみて、その目を細めて、私が違うと言ったことを否定する、お前はあいつにそっくりだよと。
そんなことをいうから、よっぽど幽霊説に拍車がかかる。

一度あなたは何者なのですかと、こぼしたことが会った、俺はあれだといって指を刺した先には、まだ若い薄が庭から申し訳なさそうにこちらに頭をたれていた。
確かに薄のような頭をしているものね、といえば、そうではない、昔吹曝しで死んだ小野小町の髑髏の目から生え出た薄だ、となぞ賭けのように男は言った。
祖母はまだそのようになっていないよ、というと、男は驚いたようだった、後はなにも言わなかった。

盆の前には何をしているの、と聴くと、特に何もしていない、時々こちらに顔をだして、また引くことの繰り返した、見たことはないが、海のようだと言われたことがあると、どこか誇らしげに男はいった。常識人が聞けばただの根無し草で、けっして誉たことではないが、やはりそれはどこかうらやましかった。

ねぇ、と声をかけると、うん?とその顔がこちらを向いた。
この家はそろそろつぶされると思う、祖母は内臓にわずらいがあったから、死期も近い、そのうち死ぬだろうと続けると、そうだろうなとまるで季節の話を返されるように返事を投げられた。祖母を連れて行くのかと聞いた、したら男は遠く遠くを見ながらさぁとこぼすように一言言った、考えあぐねているらしいかった。
祖母を連れて行かないなら、私を連れて行け、私を連れて行きたくないのなら、祖母を連れて行くといいというと、男は驚いたようにこちらを見た。長年こうして縁側に座っているが、驚かせたのは初めてであって、なんだか得したようだった。

あなたは祖母を愛しているでしょう、祖母もそのようなの、死んで枷がなくなれば、苦しくともつらくとも沿うのにそれほど害はない、連れて行くといいよ。

私はこの庭が好きだったの、この庭の鬼百合が咲くことが、咲くことを、ここでこうやって見ていることが好きだったの、この屋敷が、ここに住む祖母が好きだったの、いなくなるならいっぺんに消えてしまったほうがいい。
未練は嫌いだ、あなたのようになりたくないものと続けると、いうようになったな烏頭がと少しはほめられたようななんともいえないことをいわれた。

あなたは、あれでしょう。

そうして指差した先には鬼百合、隣に頭をたれた薄、男の指差したのは隣のそれで、わかっていて私は薄と言ったのだ。




あれを見さらせ鬼百合じゃ




男は笑ったようだった
あとがき

花シリーズ 【鬼百合】花言葉は荘厳

和服の青年が好きで書いたというだけのお話。
前回に引き続き年の差。ビバ。
今回は種族も越えてみました。

秋風の吹くにつけてもあなめあなめ
小野小町は風葬になって、その髑髏の穴から草が生えてあなめあなめという歌を大江匡房の『江談抄』で紹介しています。
もし好きな人の目に生えてしまったら、本当に申し訳なくて早く誰かが引き抜いてくれないものかと、そう草は思うでしょう。
青年は鬼百合なのですが、身上としては草(本編では薄)なので、そのように引用させていただきました。
鬼百合、好きな響きです。
鬼というのがいい、百合というのがいい。
また意味もいい、荘厳というのがいい。

貴方はすばらしい人ですよ、祖母の死出をどうか美しく飾ってください

というお話です。
| 話 −花−* | 13:48 | comments(0) | - |
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